GLAM/Case studies/サンパウロ大学獣医学解剖博物館
この事例研究はブラジル利用者グループとの共同企画をまとめUser:Joalpeが作成したものです。このプロジェクトはデジタル化ポータルにおいて、継続企画として脚光を浴びました。
プロジェクトの起源
サンパウロ大学獣医学博物館 (University of São Paulo Museum of Veterinary Anatomy (MAV)) とのGLAMイニシアチブの協議は、この博物館の展覧会「Inside the Brain」に関するパートナーシップの文脈で始まりました。私自身は大学教授としてその場に立会いましたが、この機会にウィキメディア利用者 (Joalpe) としての経験と、所属するブラジルのウィキメディア利用者グループ (特にSturmとHoradrim~usurpedの活躍) をご紹介したいと思います。ウィキメディアンを代表して博物館の理事と面談し、GLAMプロジェクトの説明と、博物館収蔵品を世間に広く知らせる上で両者が提携した場合の影響力を提案しました。
博物館の部長クラスには、このイニシアチブを同館収蔵品の認知度向上の機会と捉えてもらえたようです。特にウィキメディアのプロジェクト群の中でも、世界の博物館の運動としてコモンズ連携への参加に意欲を見せています。また特にウィキペディア教育プログラムに関連し、博物館とその上部組織である大学の獣医学部を対象に、アウトリーチ活動を設定する提案も協議しました。
ここで説明しておきたいのは、GLAMを対象にしたすぐれたアウトリーチ教材にポルトガル語版がないため、もし入手できていたなら、さらに効率よくアウトリーチ戦略を進められただろうという反省です。利用者グループの2017年度戦略計画には、GLAM企画向けにポルトガル語版リソースを作成することを加筆しておきました。
提携過程を築いた道のり
プロジェクトの進行は次のように段階を踏みました。
- コンテキスト: ブラジルの事情では博物館を対象とした最大の提携関係であり (2014年には公文書館とGLAMイニシアチブを組織)、何が必要か把握し、この活動に必要な作業量の評価を試みました。
- 機会の評価: これまでに実践した作業に照らし、博物館のニーズを評価。もっとも好適な条件は、博物館収蔵品はすでに全点、大学教授の撮影による写真が揃っていました。写真は高品質で、また作品の帰属を正しく表示する範囲において撮影者がコモンズへのアップロードに前向きで、画像をCC-BY-SA 4.0の元にアップロードすることに同意が成立。ただし博物館には正式な登録台帳がないため、画像には強固なメタデータが欠落していました。そこで提携の交渉においては台帳作りという利点があることを博物館に明示しました。
- パイロット版: Commonsにアップロードする能力のテスト用に、数百枚の作業対象画像から4点を選択しました。これは良い試みで、最初、パイロット版は失敗で、OTRSの手順をほとんど理解していなかったことが原因で写真は削除されてしまい、作業を適切に進行させるにはコミュニティの皆さんの支援を増やす必要が出ました。問題解決に当たり博物館に依頼し、博物館のウェブサイト上にこの活動をポルトガル語と英語で公表、また資料のアップロード担当として特定の利用者の承認を得ました。次に独自の機関ライセンステンプレートを作成(Template:MAV-FMVZ_USP-license)、アップロードするすべての画像に添付する体制作りをしました。
- サポートを取り付ける: サンパウロ大学に奉職する私は職務の一環として、ある学生と小額ですが報酬を渡してこのGLAMイニシアチブにサポートを取り付けました。この学生は博物館の部長職の皆さんを補佐し、主に収蔵品台帳を正規の形にまとめる準備を手伝い、コモンズへの画像アップロードを担当しました。台帳作成は非常に時間のかかる作業であり、作業のテンポは遅いままでした。2週間単位でアップロードできた写真は30点前後で、週間10時間程度の作業を必要としました。メタデータの作成には主に3段階ありました。博物館の展示品の正確な種を特定すること、紙の情報カードに書かれた内容を電子データベースに転記するにつき主に保存技術に関して入力すること、そして獣医解剖学の教授2人と情報を確認すること。
- 作業の共有: このイニシアチブに関連して博物館の部長職のひとりから強力を得て、獣医解剖学を主題にエディタソンを企画。神経科学と数学を主題とするエディタソンを開催しており、ウィキメディア財団からの支援を受けた関連の活動として実施しました。それに関する説明文書の一部はこちら。
- エディタソンのサイト
- 助成金の申請
- 助成金。
- 注記:この助成金申請に関しては、その他の設定、特に教育関連で利用できるアウトリーチ向けのリソースを申請することも有効。
- コミュニティの関与 プロジェクトによりアップロードできたメディアを対象に、コミュニティからの働きかけが増え、それを次のように評価しました:
- アップロードが進むにつれ、多くのプロジェクトに利用された理由は、それまで挿絵のないままだったテーマに適していたことが大きいと考えます。私自身、これら画像を記事に添付し、ブラジル出身のボランティアも同様の使い方をしています。例えばRodrigo Tetsuo Argentonという人の場合 {コモンズご参照: Rodrigo.Argenton)、画像の画質向上に集中して作業しています。主に色相調整と背景の整理、コントラストや色調の改善、コントラスト低減と輝度調整、構造と質感。取り組んだ画像は次のとおり。
- File:Avestruz alta.jpg
- File:Technique of dehydration applied in a foal.jpg
- File:Suíno alta.jpg
- File:Capybara skeleton.jpg
- File:Skull of crocodile (Crocodylidae).jpg
- File:Goat skull (MAV FMVZ USP).jpg
- File:Equine forelimb.jpg
- File:Vinylite and corrosion applied in a horse hoof.jpg
- File:Equine head.jpg
- この時点でアップロード画像は合計95点、そのうちおよそ20点は高品質もしくは特集画像に推薦、3点は「今日の一枚」に選出。
- さらに、より幅広いウィキメディアのコミュニティへの働きかけにより、博物館にとって収蔵品の理解が深まりました。例えば英語版ウィキペディアの編集者たちにより、展示品の解説の間違いが訂正されました。サンパウロ大学のボランティアと獣医解剖学の教授の共同作業で、それまで博物館の部長によって乾燥した子馬とされてきたのはミニ馬の子どもの誤りで、数年前に博物館に寄贈されたものという正確な説明に訂正されました。
- アップロードが進むにつれ、多くのプロジェクトに利用された理由は、それまで挿絵のないままだったテーマに適していたことが大きいと考えます。私自身、これら画像を記事に添付し、ブラジル出身のボランティアも同様の使い方をしています。例えばRodrigo Tetsuo Argentonという人の場合 {コモンズご参照: Rodrigo.Argenton)、画像の画質向上に集中して作業しています。主に色相調整と背景の整理、コントラストや色調の改善、コントラスト低減と輝度調整、構造と質感。取り組んだ画像は次のとおり。
成果
- GLAMorganという閲覧数画像化ツールによると、獣医学解剖博物館の画像は2016年9月の132万9,331件。同年7月の117万9,834件、8月の125万2,169件から伸び続けました。
- GLAMイニシアチブはサンパウロ大学の獣医学解剖博物館の成功例により、提携関係は博物館と文化施設60箇所に広がりました。これまで数学博物館、地質学博物館、教育ゲーム博物館が参加。
- 数学博物館では収蔵品は電子化されメタデータは課題ではなかったのですが、良質な画像がありませえんでした。さらに動画として展示しないと説明ができない物もありました。そこでウィ気メディア財団の助成金を申請、画像作成用の高質な用具を入手しました。
- 地質学博物館の場合、最大の挑戦は収蔵品の5,500点超という数量でした。良質な画像も台帳もなく、撮影と館のメタデータをつき合わせる作業を行いました。
- 教育ゲーム博物館は規模こそ小さめでしたが、展示品の多くは著作権や図案権の対象と考えられました。このGLAMイニシアチブの可能性を考えるため法律家に相談しました。
- 事例ごとに異なるものの、獣医学解剖博物館のGLAMイニシアチブから学んだことは多く、例として活動の日常業務を多様化する特定の期間を設ける必要性や、学生およびコミュニティのボランティアが提供できる支援の内容をあげることができます。
プロジェクトが成立した秘訣
GLAMイニシアチブが獣医解剖学博物館で発展する重点は4つあったと考えられます。
- 「内部の人間」として協議に参加できました。博物館の管理職に接触するのに、一般人ではなく同じ大学所属の教授という立場は有利でした。大学構内でウィキ文化が育つに連れ、学界所属かどうかはあまり重視されなくなることを期待します。
- ウィキメディアのコミュニティの皆さんの協力で--博物館の管理職が長年にわたり実現を望んでいたとおり、博物館の正式な台帳を作成できました。GLAMが通常の作業の一環として活動に取り組んだことから、「過重な」作業を求めずに済みます。この形態の共同作業により活動のテンポは遅かったものの、博物館との人間的なつながりはたいへん強靭になり、さらに活動を発展させ、例えばエディタソン開催にまで手を広げることができるようになりました。
- 大学から学生1名に対して奨学金制度が提供されたことを強調したいと考えます。この学生は台帳作成と画像をコモンズにアップロードする作業全般でもっとも精力的に活動したのがこの学生だからです。
- ブラジルのコミュニティが活発に活動し、なかでもブラジルのウィキメディア利用者グループが中心となり、画像の割り当てで作業が速いペースで進行し、改善されたのです。
類似のプロジェクトに役立つ教訓
もしこの企画に再度、取り組むとしたら、以下の助言を取り入れます。
- コモンズで活動経験があり、OTRSの手順を冷静に説明し、方向付ける人と連絡を取ることから始めます。
- リソースとニーズを評価します。支援を探し、ニーズに合った効率的な解決法を決めます。GLAMイニシアチブは楽しいので --学生やウィキメディアコミュニティのボランティアなど --クールな人々がたくさんいて喜んで手伝いしてくれます。
GLAMプロジェクトに学生アルバイトを雇用
このプロジェクトの成功は仕事を効率的にこなす学生の作業者を確保することに大きくかかっており、博物館職員や大学の専門家に助言をもらいながらプロジェクトに欠かせないメタデータを作成します。学生との作業では、事前に以下の各点を整えておくことが肝心です。
- 活動プロジェクトを非常に客観的に文書で説明し、仕事に伴う作業を述べる (こちらから入手可能)。
- 学生に作業への導入と高度な研修を提供し、この仕事が幅広い聴衆に知識を広める手段であることをよく理解して --またやる気を出して--もらいます。このような深い知識がないと、やる気を失いがちです。
- 専門職の職員と共同関係を築きます。
- 学生と教授が協力して解剖学的保存手法の分類マップ作り (プロジェクトのコンテンツの手薄な部分) に取り組む場合、作業の概念的な枠組みを提供します。
- 学生は博物館館長と打ち合わせを開き、自分が勧めるワークフローの構成を説明することができました。
- コントロールスプレッドシートを設定し、学生は作業の進行に合わせて次つぎに記入します。アップロードした写真1枚ごとに特徴を説明。もし学生が作業中に問題に出会い、たとえばカテゴリ決定に迷ったり、メタデータに不明点があった場合など、このスプレッドシート型の文書内に記録を残し作業を引き継ぐことができます。
- 私たちがアウトリーチ活動を設けて学生を参加させます。収蔵品に関する学生の知識を深めること、プロジェクトで学生が身につけた技術をワークショップ参加者に教えること、その両方の機会を提供します。
- 類似の戦略
- ウィキペディア図書館のインターン制度 Wikipedia Library Interns
関連項目
- August 2016 Brazil Report ブラジルの報告 2016年8月
- September 2016 Brazil Report ブラジルの報告 2016年9月
類似のプロジェクト、ツール
- コモンズへの一括アップロードの手順。Commons:Guide_to_batch_uploading
- 学習パターン:メタデータが充実したコレクションの評価と効果的なアップロード方法 Learning Pattern for assessing and effectively uploading metadata-rich collections
- 学習パターン:電子アーカイブ集に適切なメタデータを効果的に追加する方法 Learning pattern for effectively adding the right metadata for digital archival collections